ダック商品にロウケツ吹雪「Y社M58」その1


しまったなあ、加工前の写真を撮りませんでした。
でも、手をかけるのは地色の部分で、柄のところはさわりませんから、
吹雪に関してのトピックという意味では問題ないはずです。
  
吹雪というのは、細かい斑点状の模様を言いますが、
吹雪加工は3種類の方法があって、
中間業者にも、その違いや用途を正しく理解していない人は少なくありません。
順に紹介していく機会があるでしょうが、今回はロウケツ吹雪です。
しかもダック友禅を施された商品ということで、更にことは複雑ですので、よい資料です。
  
まずはダック友禅から解説しましょう。
普通手描き友禅は、
・柄部分を白く残して地色を染める
・次に柄部分を彩色していく
という手順か、或いは逆に
・柄部分を彩色する
・そこに色が入らないように地色を染める
という手順で染めます。
どちらも地色を染めるときに、柄のところに色が入らないようにしないといけません。
そのために、その部分を糊で覆って養生するわけです。
この手間を省くために考えられたのがダック友禅です。
  
・防染液を混ぜた染料で柄部分を彩色する
・地色を裏から染める
というやり方です。
柄のところは加熱することで撥水効果が現れ、あとで染められる染料をはじき、染まりません。

左はさきほどの商品を裏から見たものです。
柄のところにも地色が乗って不鮮明になってしまってます。
右は普通の友禅を裏から見たものです。
柄のところは伏せてあるので、地色が全く入っておらず、輪郭こそ不鮮明ですが、色ははっきり出ています。
  
さて、ダックの話は一旦おきましょう。
もっと色々お話ししたいことはありますが、今回の主役はロウケツ吹雪です。

ロウケツ吹雪というのは
・生地に溶かした蝋を飛沫状にして吹き付け
・地色を染める
・蝋を落とすと、そこだけ染まらず斑点状の模様になる
というものです。
  
注文は
「柄はそのまま残して、地色だけを吹雪入りで指定の色に替えてくれ」というものです。
冒頭に、吹雪は3種類あると申しましたが、
今回用いるべきはロウケツ吹雪です。
    
先ず柄を養生しないといけません。
通常の地色替えであれば、米から作られる水溶性の伏せ糊を使いますが、
吹雪にロウケツを使うため、蝋を使うことを考えます。
同じ性質の物を使うことで、色々利点があるからです。
しかしこの商品はダックです。
ダックはガード加工と同じく、付着しようとするものを寄せ付けない働きがあり、
更にそれは加熱により効果をより一層発揮しますから、
溶かした熱い蝋など受け付けようとしません。
そもそもダックそのものに防染効果があるわけですから、
伏せる必要がないのです。
  
じゃあ、
・全体に蝋の吹雪を置いて
・地色を染める
だけで、終わりじゃないかと言われそうです。
実際最初はそうしてしまったのです。
それが失敗に終わりました。
  
どうしたことか、染料をはじくはずのダック部分も、蝋の周辺部は色が入ってしまったのです。
柄の部分はまだらになってしまいました。
その理由は今だにわかりませんが、心得ておくべきは
ダックと蝋の相性がよくないということです。
そこで、柄の部分に蝋が乗らないように、前回の日記で登場したエンブタで伏せるわけです。
このあと蝋の吹雪を置き、エンブタを剥がしてから引染をするときれいに染まります。
  
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