背景色を地味に「T社4009」その1


このバックの朱色を地味にしてくれという依頼です。
問題は、指定の色が相当に濃いのです。
・仕立てたまま加工せよ
・指定の色にせよ
この両立が難しいのです。
  
ご覧のように松葉が細かく入り組んだ柄ですが、これは金彩です。
染料で金属は染まりませんので、上からざっと塗っても、松葉はそのまま残ります。
すこしくすませる程度なら、染料でも仕立てたまま加工します。
コテで加熱して蒸しの代わりにします。
  
ところが色が濃いと、裏地まで色が通ってしまったり、
染着が十分でなくて、色泣きの事故を起こします。
反物の状態だと、これもきれいに加工できるのですが、仕立てたまましろという指定です。
  
顔料(樹脂系の着色剤)はピースと呼ばれるエアブラシのようなもので加工できます。
仕立てたまま濃い色を乗せることもできますが、これは金の上にも乗ってしまうので、
松葉が消えてしまう。
かといって、これをマスキングするなどは、とんでもない手間がかかります。
  
さて困りました。

そこですこし地味にしたシュミレーション画像を見せましたが、納得してもらえません。
そればかりか、
「場面の広いところだけ、顔彩(=顔料による彩色)でいいから指定の色にしろ」と言ってきました。
それは絶対におかしい。
そこで、これもシュミレーション画像を作ってみました。

形のはっきりしないかたまりがボコンボコンとできました。
しかも、上前は松葉が詰まっているので、彩色できるのは主に後身です。
  
これでOKを言ってきました。
まことにもって気の進まない仕事です。
なぜこの「変さ」が理解されないのでしょうか。
赤い花を黒く「N社」でも少し触れましたが、
我々は顧客(中間業者)の指示で加工を請け負う仕事ですから、
ここまで説明を尽くして尽くして、それでも「やってくれ」と言われたら逆らえません。
消費者の気持ちになったら、とてもじゃないが手をかける気になれません。
ビジネスと割り切ってやるしかないです。
あー、つまらん仕事だ。
  
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