地色を黒に「I社521」その1


振袖です。
シミを隠したいので、地色を染めたいというご希望です。
写真ではわかりませんが、たくさんカビ跡があります。
最初はねずみ色という希望でしたが、シミが隠れません。
紆余曲折あって、黒ということになりました。
  
で、最初は巻きボカシにして欲しいという要望でした。
「巻きボカシ」というのは、柄に色がかからないように、
よけながらぼかす染め方です。
「遠巻きに眺める」とか「取り巻く」とか言うように
中心となるものの周囲を囲むことを「巻く」といいますね。
  
この振袖、写真では地色が無地に見えるかも知れませんが、
白と玉子色のぼかしになっています。

アップにしたらわかりますかね。
柄の近くは白くて、その周囲は玉子色になってますね。
その境界線をわかりやすく示すと、

こういう具合になっています。
  
これに沿って黒に染めるとどうでしょう

一部柄が黒く染まって消えてしまうのと、
長く伸びた枝の部分が天狗さんの鼻のようでいかにも不恰好です。
  
こういう柄は、本当は部分的に柄を伏せて(=染まらないように糊で覆って)染めると

恰好よく染まります。
しかし糊伏せの手間賃が余分にかかってしまいます。それを嫌がるお客様から
「伏せずに、尚且つせいぜい柄の近くまで染めてくれ」と言われることがあります。
そうすると、こんな感じ。

ますますもってブサイクです。
しかもよけた部分は白のところと玉子色のところが残っていますから。
見ようによっては地色が変色したか、あるいは染料が分離したかのように見えます。
  
そんなやり取りを何度か繰り返して、
結局ボカシにせずに、このブログの第1話のように、
柄を全部伏せて地色を完全に黒に替えることに決められました。
最良の選択だと思います。
実際にかかることになりましたので、後にその様子を見ていただきましょう。

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