赤い花を黒く「N社」


これと一緒に同じ部分をコピーして指示を書き込んだ紙を持ってこられました。
いくつかの柄を黒く塗りつぶしてくれというものです。
柄色を地味にしてくれという依頼は日常的によくありますが、塗りつぶせというのはひどい。
柄が消えてなくなると思っておられるのでしょうか。
中々話が進まないので、Photoshopを使ってシミュレーションしてみました。
それがこれ。

通常このようなサービスはしません。
大層手間がかかるのと、シミュレーション画像通りにあがるわけではないので、トラブルの元だからです。
  
いくら黒くしても消えてなくなるわけではないし、絽目から裏に渡った糸が覗きますので、
柄の輪郭に元の色が残ります。
  
結局赤い花だけを黒くしてくれということになりました。
地味にするにとどめたらどうですかという提案は却下されました。
で、実際に彩色したのが下の写真です。

正面から写真で見ると消えたように見えますが、角度を変えてみましょう。

織で表現された物理的な文様はいくら色を変えても消えることはありません。
  
我々誂え業者の心得ですが、
消費者の依頼に対して、「それは具合が悪い」「代わりにこうすれば」という提案はしますが
それでも「構わないからやってくれ」と言われたら、もう逆らえません。
押し問答の挙句消費者の怒りを買うのが関の山だからです。
  
それと、消費者と対面で応対をする小売業などに問題がある場合もあります。
自身の経験が浅いために「それはおかしいです」「こうすればよくなります」ということが言えません。
「これこれで引き受けてしまった」「お客様のおっしゃる通りに」で押し通そうとします。
確かに言われた通りのことをやっていれば、文句を付けられることはないでしょうが、
着物にとってもお客様にとっても、よい結果が出るものではありません。