柄の粘着


柄の粘着です。
  
この手の加工は粘着や剥離のトラブルが多く、工場の殆どがクレーム処理が経営を圧迫しつぶれました。
それと、最近の安物はインクジェットが主流で、こういう刷り込みの加工はめっきり減りました。
  
本物の友禅は多くの工程を踏む必要があるのですが、
こういう加工は、先に地色を染めてしまって、後から柄を刷り込みます。
トレーナーやTシャツによくある加工と同じです。
安価で見栄えがよいために、一時流行しましたが、トラブルが多く業界でも問題になりました。
昨今流行りのインクジェットも後々どうなることやら知れたもんではありません。
使っている材料が、通常の染料でないために、
染色補正士のなかには、インクジェットには手を出さないと決めている人もあるぐらいです。
  
さて、本題
粘着性のことを「タック」と言いますが、柄がタックを持つには色々なパターンがあります。
1)箔が剥離してバインダーが露出している
2)柄そのものが剥離している
3)剥離はしないが、タックを持っている
  
1)
バインダーというのは接着剤です。
金は染料のように、そのまま染着しないので、生地に接着剤でくっつけるわけです。
箔が剥がれると、その接着剤が露出するので、そこが粘着性を持ちます。
もう一度箔を貼り直すことで改善されます。
  
2)
最も厄介なパターンです。
柄を刷り込んだ際の接着不良で、柄自体が剥離してきます。
剥がれた跡はうっすら色が移っているぐらいで、殆ど無地に近い状態になります。
いずれ写真でご紹介する機会があると思います。
詳しくはその時に述べましょう。
  
3)
今回のはこれです。
表面をシリコン皮膜で覆うことで改善されますが、根本的解決にはなりません。
ひどいものは1週間ほどで効果がなくなります。
加工してもしばらく手元で様子を見ないと、納品しても返ってきます。
  
いずれにしても、粗悪な加工のツケを消費者が負わされている恰好です。
着物を始め、伝統工芸品はそう度々買い換えるものではなく、いい物を永く使うものです。
中国製の洋服みたいに、安くてデザインがいいからといって飛びついてはいけません。
インクジェットは振袖や小紋が多く生産されています。
しかも許されざることに、「京友禅」の証紙を貼る事が認められています。
証紙の価値も、業界の信用もないがしろにするものです。
怒りを禁じ得ません。
  
最後に
タックのあるものに、紙をあてがって保管する人がいますが、(ほとんどそうですが)それはいけません。
タックのひどいものになると、紙がくっついてしまって取れません。
ティッシュのような柔らかいものだと、繊維がついてしまって、
柄に産毛が生えたようになってしまいます。
今回の写真も、わずかですが紙繊維の残っているのが見えます。
  
クッキングシートというのがありますね。
こびりつきや焦げ付き防止のために、なべ底やトースターの台に敷くやつです。
テフロン加工がしてあるので、粘着を寄せ付けず、尚且つ
通気性があって、しかもスーパーなどで簡単に入手できます。
保管の際はこれを利用してください。

赤を地味に「T社T外1」その3


その後、赤い部分に「渋金」と呼ばれる全く光沢のない金砂子を入れ、
尚且つ、白を塗ったためにピンクになった部分を藤色系に彩色。
  
様子を見ながら少しずつ進めたので、大層時間がかかりました。
通常の彩色仕事の3倍ほどの手間賃で見積もりをしていたのですが、
実際には5倍ぐらいの手間がかかりました。
もっとも、単純に全部渋金で地味にしても、クレームはないでしょうし、
それなら3倍ぐらいの手間賃で済んだのです。
謂わばこっちの勝手で手間をかけたわけですから、不服はありません。

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赤を地味に「T社T外1」その2


様子を見ながら少しずつ作業を進めているので、なかなか捗りません。
地味にすることをまだしていないので、変わり映えしないように見えますが、
どうかなあ、赤の量的バランスとしてはこんなものかなあ。
牡丹を白くしたのは効いてる。
じゃあ、これであとは赤を地味にする作業に入ろう。

(加工前を見る)
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大きなシミ「O社K-197」その1


男児用初着です。全体にシミが出ています。

特に左脇のシミがひどい。
ここまで茶色くなると、シミ抜きで直るものではありませんが、
それでも、シミ抜きに出せば直ると思っている人は少なくありません。
  
上から加工を足して隠すことにしますが、一通りのことでは隠し切れません。
彩色、柄足し、金加工。
色々な技法を合わせ使うことで、なんとか違和感なく仕上げようと思います。
  
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赤を地味に「T社T外1」その1


赤を地味にしてくれという、割とよくある依頼です。
普通なら、そのまま彩色で地味にして終わりです。
他の工場でも恐らくこれもそういう判断をして、地味に彩色をするでしょう。
そうしないところが、経験豊富な弊社。
  
赤さが派手なのではなくて、赤の量が多すぎます。
特に上前あたりは花も葉っぱも何もかも赤いです。
落ち着いた感じにするには、赤の色もさることながら、その量を減らさねばなりません。
良く見ると、一旦染め上がってから、わざわざ赤を塗り足したような跡があります。
思ったより地味に上がったので、派手にしようとしたのでしょう。
何も派手にするのは赤だけの仕事じゃないんですけどね。
  
勘案した結果、白っぽい柄は白部分を多くし、
赤い柄のいくつかも、白を主体に他の色に変えることにします。
全体に配色のバランスを取ってから最後に赤色の彩色をするという方向で行くことにしました。
  
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